『街』取材記 武蔵小杉編①

住みたい街ランキング3位にもなった神奈川県川崎市に位置する『武蔵小杉』。

5年前から再開発が急速に進み、地価がバブル状態になっている街。
その主たる要素となっているのが今も尚建設が続けられているタワーマンションだ。
現在、8棟が建ち、今後の予定された建設を合わせると、11棟にも及び、
入居者も順調に伸び続けているという。
人口は、再開発前よりおよそ1万人も多く増える事になる。

そして、再開発の目玉である商業施設。
中でもセブン&アイグループにより2014年にオープンした『グランツリー』は、ハイセンスで斬新なショッピング施設として多大なる集客力を発揮し、今や街のランドマークとなっている。

以前の武蔵小杉の中心地は、東横線の西側にあった。
住宅地、企業の社員寮、商店街、病院や区役所なども西側にあり、比較的庶民的な街並みであった。
その頃、東側には企業のグラウンドや、工場跡地となっていて、
暮らしに纏わる施設などは何もなく閑散としていたようだ。
この東側の敷地を利用し、マンションや商業施設が建てられる事になったのである。

巨大な商業施設『グランツリー』ができてからは、その東エリアがショッピングなど暮らしのメインエリアとして位置づけられ、新築のタワーマンションに住む人が増え、人の流れも東側が中心になったと言える。

話は冒頭に戻るが、武蔵小杉が住みたい街にランクインした理由を最近この街に住み始めた人達に聞くと、ほとんどの人が、『交通の便』と口をそろえる。
5年前横須賀線の武蔵小杉駅が開業し、都心へのアクセスも向上。
元々、東横線、南武線と東西南北に足を延ばせるターミナル駅であったが、この横須賀線の開業で更に利便性が充実したのだ。

住み始めた人達にとっては、従来の武蔵小杉の街の特徴や暮らしやすさなどは
知る由もなく、何よりも交通の便を優先して新天地を求めてきたようだ。
また、高級感あるタワーマンションに住み、オシャレでキレイなショッピングモールで
買い物や飲食をする事がステータスとしているようにも見受けられる。

一方、元々武蔵小杉に在住の住民達は、再開発で街の価値が上がると共に、
より住みやすくなる事を当然期待していたわけだが、
再開発が一段落した現在、大手を振って喜んでいるというよりは、
「武蔵小杉は変わったなあ」とあまりの急激な変化に戸惑いを見せる人も少なくない。
新たに発生した急流に追いつく間もなく、ただ傍観しているという感すらある。
とかく、グランツリーなどの大型ショッピングモールには、あまり関心を寄せておらず、
むしろ、あれだけ、広大な敷地をとって商業施設が入ったわりに、家電製品やホームセンターが無いと不便な点を指摘する声も多いようだ。

そして、明らかに懸念している事といえば、タワーマンションの今後の増設による
日当たりの問題だ。
従来の武蔵小杉には高層マンションはなく、要らぬ心配だったのだが、
いざマンションが建ち並ぶと、ビル風が吹くようになったという事と、更に街を囲うようにマンションが立ち並ぶようになれば、今までのような1日を通しての良好な日当たりは期待できなくなる。

更に後ろ向きな発言も見受けられる。
マンションラッシュと人口の急激な増加で、地価もあがり、高級志向のイメージが
街に馴染み、物価も高くなるのではと。

前述したが、再開発前の武蔵小杉は、ごくごく庶民的で良い意味で地味な街であった。
商店街や町内会の中心を担っていた人は高齢化し、後継者も不足しているのは全国的によくある話だが、高級志向の再開発も相まって、駅前の商業施設で客を奪われる。
街に人通りは多いものの、商店街の売り上げ自体は減少しているという事実もあるようだ。
更には、高齢化した地主から土地を高価で買い取る企業系の店舗が増え、
地に根差していた個人店などのお店が増々減っていくのではとの声も聞こえるほど。

そんな現状が垣間見える「武蔵小杉」だが、様々な弊害を払拭するかのように
エネルギッシュに活動している組織があった。

NPO法人 『小杉駅周辺エリアマネジメント』、略して『エリマネ』。
所謂「街作り」に貢献する活動を主として、街のイベント、事業を運営する組織だ。
タワーマンションが建ち始めた時期から、そこに住み始めた住人を中心に結成されたようだ。
商店街、町内会、商業施設(企業)、役所をも巻き込んで、自らが住む街を
活性化しようと目論んでいるらしい。

筆者としては、彼らの活動に接触して間もないので、その中身はまだここでは明らかにできないが、何か、街作りへの愛やハッピーなエネルギーを感じたため、密に取材をさせていただこうと考えている。

急速に変化を見せ、新たに生まれ変わろうとしている武蔵小杉、
その立役者は?誰のために? 今後、どんな街作りが行われていくのか楽しみだ。
(次回に続く)