月別アーカイブ: 2016年3月

いま、町内会は必要か?

地域の取材をしていると、必ずといっていいほど町内会の問題にぶちあたる。

横浜市のとある街では、小さな規模ながらも、年中、お祭りや催し物が行われている。主催するのは、町内会や街のボランティア、商店街の人達だ。

 

その目的は、街の人達の交流という事が表向きであるが、もっと根深い問題を解決すべく一つの手段であるといった方が正確だ。

地域という狭いエリアの中で、今、何ができるかが、本格的に問われている。

それは、国を挙げて課題としている少子高齢化問題だ。

特に、高齢化が町内会の運営に影を落としている。

祭りごとなど、街のイベントを運営する町内会の役員は、持ち回り制であったりするが、それに参加できる人員が不足している。

近年、地主が切り売りした土地に所狭しとマンションが立ち並び、核家族化が進み、地元の一軒家に出戻りで2世帯が住むというケースもだいぶ減ったという。

最近では、町内会に加入しないマンションが多いのだ。マンションには管理組合があり、町内会と同じような事をやっている組織でもあり、特に町内会への参加は必要ない、むしろ色々と面倒だと考えているのかもしれない。

住人は増えたとしても、町内会の活動に参加しているのは引退を待ち望む高齢者ばかりで、体力も気力もなくなれば、当然、町内会の仕事に参加できなくなる。

今は、腰を曲げながら、病気を抱えながらも懸命に活動を続けているのが現状だ。

町内会長は言う、

このままだと、町内会の消滅も有り得る。街の運営をアウトソーシングせざるを得ないかもしれないと。

町内会というのはそもそも、行政と連携しており、福祉、防犯、防災、交通、教育などの場面で活動が幅広い。その重要性を、再考すべき時代がきたと言える。

その一つが、『独居高齢者』対策だ。

この街に住み、30年。 奥さんは3年前に他界し、御年80歳のAさん

子供達は他の土地で暮らしている。大きな病気こそないが、足腰が不自由で立ちあがり、歩行の動作に支障があることがあるという。

要介護1を認定されている。

近年、厚生労働省は、保険財政の悪化を懸念し、介護保険制度の見直しを計っている。来年度にも、多くの見直しが実施されそうだ。 中には、要介護1.2の「軽度者」に対してホームヘルパーが訪問介護で行っていた「買い物」「調理」「掃除」といったサービスを給付対象から外すという検討事項がある。

Aさん「そりゃ困るね、今まで200円でやってもらったことが保険適用外となると2000円以上にまでなるでしょ?」「そりゃあ無理だよ」

介護保険のサービスが減少することで、利用者の負担が増える。

もはや、国にも頼れない時代となったと言える。

ご家族も、週に1度は来るものの、それ以外は仕事をしている中で、なかなか介護に時間が割けないのが現状だ。

このように国が介護問題をカバーできなくなってしまうと、各自治体がその役割を担わざるを得ないと考えられる。

横浜市の職員いわく、市内でも、高齢者の増加は目に見えていて、それに対応する人材が圧倒的に不足している。

来年度の介護保険制度改正にむけて、今年度から生活支援職員、コンサルティングを増設、また高齢者支援の予算を増やし、対策を講じようとしているところだという。

何より、各自治体が地域のケアプラザ、町内会、民生委員、街のボランティアの方と連携して対応する事が最重要事項だという。

要するに、介護保険外の受け皿としてそれぞれの地域で助け合う事が求められていると言えるだろう。

独居高齢者の見守りを率先して行っているのが、民生委員だ。民生委員は町内会から推薦で選ばれた人、その土地や住人の事をよく知っている。

この街の民生委員のKさんは、民生委員を始めたばかりだが、以前から町内会の行事に参加していたという。

民生委員の業務は幅広いが、その一つが高齢者の見守り活動。

75歳以上の一人暮らしの家をまわり、郵便物は貯まっていないか、窓が空いているかに注視し無事を確かめる。

現在、Kさん一人につき、およそ20人の高齢者を担当している。

もちろん、今後、該当する高齢者が増加し、受け持つ人数も増えるであろう。

Kさんが特に心掛けているのは、高齢者を一人っきりにしない事、外に連れ出し、一緒に食事をする場を設けたり、仲間と会話をする機会を作る事にあるという。

確かに、一人っきりで部屋に閉じこもってしまわれると、健康状態を確認する事すらできないからだ。

何より、孤独ではない、街の仲間が居るという気持ちの面でケアするべきだという。飲み会やサークル活動にとにかく誘うのだが、女性は、お話好きで積極的に参加するものの、男性は面倒くさがって引きこもってしまう方が多いという。

「自分は一人で死ぬから、もういいですよ」と断られる。

衝撃的だが、これが現代の日常でもあり、所謂「孤独死」は全国的に増加しているのが現実だ。

さて、町内会の話に戻るが、町内会長は、高齢者対策に関してこう話す。

『とにかく、一人にしない事。』

一緒にテーブルを囲む事が大事だと思うし自分たちに出来うる事だと実感している誕生会などの記念日は、皆でお祝いをする。

また、町内会で集めた予算から高齢者へのサービスを行っている。

65歳以上の方の名簿を毎年つくり、高齢の日には菓子折りなどのプレゼントを配布する。そういったところから、交流をはかることが大事。

うちの町内会は高齢者と、子供会に力をいれ予算を配分している。

とにかく、年老いても、老人ホームなどの施設に入らなくても済むようにしたい。街全体が福祉を支える組織を作りたいと力がはいる。

さらに、この街には福祉協議会、町内会、ボランティアが一体となって運営する高齢者向けの独自のサービスがあるという。

町内に住む65歳以上に向けたサービスで、買い物、掃除、洗濯、ゴミだし、草取りなど内容は多岐に渡る。

1時間600円と有料だが、介護保険のサービスが縮小される中、依頼が増加しているという。

実際に、その作業にあたる人はほとんどがボランティアの人達。これも、町内会からの呼びかけで参加してくれる人も多く、現在60人ほどのスタッフが登録され、売上の中からボランティアさんへの謝礼、備品の購入を補っているという。

・利用者の方の声。【会報誌より抜粋】

Iさん:加齢のせいか、掃除がだんだん負担になっていました。週1回でも掃除をお願いしたところ、掃除のあとは気分もすっきりして本当によかったと思います。これからもお願いしたいです。

Yさん:私は男性で後期高齢者です。歩行が多少不自由なため、高いところの作業ができなくなりました。たまたま街の掲示板でこの地区にこのサービスの案内があり、早速困っていた庭木の枝払いやゴミ収集ボックスの看板の取り付けなど、高所の仕事を依頼しました。作業にあたってくれたボランティアさんは、みんな親切で安心してお任せできます。 いざ困った時は、この街のサービスを便りにしています。

一人暮らしであっても、介護施設などに入居するのを少しでも遅らせ、自立した快適な暮らしを支援している。というのが、町内会やそのサービスの趣旨だ。

このように、高齢者の見守り、孤独死の防止、生活していくために助ける事を街全体が協力して行っている。

町内会という街の組織があるから、お金が集まり、人が集まりその力が目的を持った活動につながる。高齢者にならないと実感しないことかもしれないが、遠くにいかずとも、住んでいる場所で快適に暮らす事、その環境を作っているのが、町内会や地域のボランティア団体であり、今後は、近所、仲間で支え合う、助け合うという意識がなにより重要になってくるのではないかと思わせる取材であった。