月別アーカイブ: 2015年4月

FD

最近、とあるテレビ局のスタジオ収録で制作スタッフとして参加したのだが、
その際に改めて感じた事。
今回はその番組の内容というより、普段日の当たらない職種、フロアディレクターについて、その職種の紹介と、活躍ぶりを述べたい。

フロアディレクターとは、
主に、テレビ番組の収録や生放送中にスタジオ内の進行を仕切る役で、
番組内容を演出するディレクターとはまた違う。

まず背景として、今回収録した番組は、出演者は7名で、カメラ5台(クレーン含む)
大掛かりな美術セットもあり、
物の出し入れも多く、さらに3DCGを絡めた内容であったため、
何か一つでもトラブルがあれば、とうてい予定どおりには終わらないギリギリいっぱいの収録体制であったと思われる。

リハーサルの時間も十分ではなかったため、物出しの段取りもチグハグなまま、
本番の時間を迎える。
タレントさんのスタジオ入りも、本番ギリギリの方が多かったため、
ほとんど打合せもせず(台本なども全て目を通せるはずもなく)、一発勝負状態。

そんな慌ただしい中で、
リハーサルと本番の合間に御昼ご飯もとらず、入念に進行をチェック、シュミレーションする人物がいる。
それが、フロアディレクター=FD
今回のFDさんは、とても小柄で、一見物静かな感じの若手の女性。

そして、本番時刻になると、威勢よくタレントさんを迎え入れ、
立ち位置に案内し、いよいよ本番スタート。

さすが百戦錬磨のタレントさん。ろくに打合せもしていないのに、
本番になるとそれぞれが自らの役割をすぐさま把握し、
MCは軽快に番組を盛り立て、クロストークは徐々に盛り上がりをみせる。
そして、一つのテーマが終わり、次のテーマへ話題が変わる際に、
スタジオのセットや小道具、立ち位置などが変更(展開する)。

この展開時こそが、FDさんの重要なお仕事だ。
この展開が遅れたり、大道具を動かしている最中にカメラに激突したりすると、
再開までに大幅に時間がかかり、演出もタレントも内容に集中する事が困難になってくる。
例えば、時間がなくなると、「妥協」という解決策が優先されてしまうのだ。

どんな仕事でもそうだろうが、
時間とお金に縛られている中で、永遠にクリエイティブに拘ってはいられないわけで、
その環境の中で、ベストパフォーマンスをするのが、プロの仕事だ。
だからこそ、最初に描いた予定通りの段取りで進めたい。

カメラがどう展開し、セットがどこからどこへ動くか、どのタイミングで、フリップを入れるか、フロアディレクターだけが、明確に全てを把握しているのだ。

そして、細かな点も見逃さない。フロアに張られたバミリ(出演者や物の位置を示すテープ)が、1センチでもずれようもんなら、5秒で貼り治す。

またスタジオ内の人の使い方も凄い。
スタジオのカメラの後ろ側には、マネージャーさんやらプロデューサーやらADやらたくさんいるのだが、その人達をも上手く使いこなすのだ。

スタジオに3つのイスがあるとする。
その3つのイスを次のシーンで外にださなければならない。
一人で3つのイスを一気に持ち運ぶのは無理だから、他の2人、イスの近くに突っ立っている暇そうな人に事前に声をかける。
「次の展開でこのイスを上手(かみて)にわらってください」 
※わらう=移動する、どけるの業界用語

その時の言い方もきわめて重要で、物腰柔らかくわかりやすい。
失礼の無いようにかつ端的に説明するのだが、
言われた方も何の違和感もなく、その作業に協力する、いやむしろ手伝いたくなるほどだ。

そして次の瞬間 小柄な身体を活かし、
クレーンの下をさっとくぐり、次の段取りを演出ディレクターに打ち合わせる。
物を出す大道具さんにもどのタイミングで、どうするか、を的確に指示。
次の展開を10秒足らずで伝達するのだ。

本番が始まってしまえば、そこで考え込んでいる時間はないわけで、
ちょっとしたトラブルを含め、全て想定内といったところか、
冷や汗一つかかずに?約3時間の収録を無事遂行した。
番組の内容も、プロデューサー、ディレクター共に納得のご様子で。

このFDという仕事、
まるで、サッカーの司令塔のような動き、観察力、
周囲のスタッフをうまく使い、時間内でゴール(収録成功)にもっていくその様。
そう、スタジオは、彼女のフィールドであり、
実は、出演者よりもディレクターよりもカメラマンよりもこのスタジオワークに
命をかけている職人なのだ。

演出はもちろん大事だが、作業を進行させるプロフェッショナルは欠かせない。
というわけで、収録中、
個人的には番組の内容よりも、そのFDさんの動きに魅了されてしまうのである(笑)

このFDのお仕事、確かに、
ADが兼務するより、専門的な職種として成立し、認知されたほうがよいと思うし、
スタジオ収録モノの番組作りが盛んな現代では、活躍の場も多いだろう。