月別アーカイブ: 2016年7月

地域防災

ここ10年においても、大きな地震が頻繁に起きている。

全く他人ごとではないし、いつ自然災害が起こるかは誰にもわからない。

その脅威に対して、私が取材する地域という単位においても、今後の災害対策が

重要課題となっている。

つい先日発生した熊本地震でも、多くの建物が倒壊し、ライフラインが失われた。

その緊急時に、建物に閉じ込められた人や、身動きのとれない高齢者を助けるのは、まさに近所に住む人であり、そこにあるコミュニティ組織の機能が試されるといっていいだろう。

国や自治体の救助組織は当然ながら一度に全ての人を救出できない。災害医療において、72時間という壁が、人命を救うタイムリミットと言われており、地域の人達の助けに頼らざるを得ないのが実情だ。

今後の対策として、地域という単位で何ができるのか?どんな準備が必要なのか? それぞれの地域の人口や、地形など環境の違いから、対策は千差万別となるが、今回は、2つの地域(ケース)における対策に注目し、取材した内容を紹介したいと思う。

◆1つ目の地域は、川崎市、東横線の「元住吉」駅前に位置する「モトスミ オズ通り商店街」。この商店街は、今年28年度の総務省の主催する『防災まちづくり大賞』にて総務大臣賞を受賞した。

まずはその中身を商店街の理事長にきいた。

2011年3.11の東日本大震災、この時、ここ川崎市の元住吉駅前でも混乱が見られた。この地でも震度5強を観測、この地域の主要路線である東横線も運行を停止した。駅前には帰宅困難者が続出し、商店街には右往左往する人々があふれていたという。また夕方になると、道路上は渋滞し、歩道には都内から徒歩で帰宅する人々がひしめき合っている。

いざ災害が起きると、商店街のお店も早々に店じまいし、買い物をする場所もなく、混乱は膨れ上がり、街中が機能不全に陥ってしまう事態に到る。

そんな時、助け合うどころか、自分の事だけを考え、水や食糧を大量に購入したり、高齢者を差し置いて逃げたりとしてしまうのが人間の性でもある。

それを目の当たりにした商店街の理事長は、商店街組織で何かできないものかと考えたのが始まりだ。

まず、その時の混乱を反省すべく、地域の人達にアンケートをとり、その傾向と対策をまとめた『安全ぶっく』という冊子を街の大学生達と共に作成した。そこには、3.11、この街ではどんな事が起きていたのかの事例や、住人の人達はその時、商店街に何を求めていたかをヒアリングした結果が記されていた。

困った事・・ 

・電車に乗れない⇒駅のトイレが渋滞

・店が閉まっている⇒食糧や水が買えない。

・震災後、自粛ムードで商店が閉まっていて、帰り道が暗い。 など

商店街に期待したい事・・

・災害時、商店街のトイレを開放してほしい

・食糧や水の備蓄をお願いしたい。

・買い溜めする人の対策をとってほしい。

・自家発電機を設置してほしい。

・輪番制で特定のお店を開けておいてほしい。

・災害情報などの掲示板を設けてほしい。

など多くの声が寄せられた。

商店街は衰退していると言われている昨今でも、実は、こんなに多くの事を求められている事が分かったのである。理事長はこの事実を各商店に訴えかけた結果、賛同した各商店が以下のような対応をする事に。

ラーメン店:お米を備蓄。プロパンガスによる調理の継続。

店主「万が一の事態に備えて、お米の買い付け量を常に増やし、いつでも多目に炊けるようにしています。また入れ物も必要なので、とりあえず、500個、お弁当の簡易容器を準備してあります。」

メガネ屋さん:手回し式の懐中電灯の販売を開始

店主「あのとき、乾電池があちこちで売り切れていましたよね。手回し式の懐中電灯であれば、もっとお客様のお役に立つのではと」

喫茶店:緊急避難所として開放。

店主「3.11当時、いったん店を閉めたのですが、外へでると状況がわからず困っている方がたくさんいて、とにかく居場所のない方のために再度店を開け、中でお待ちになるようにすすめ、トイレは店のお客様以外にも貸すことにしました。」「もし今後、同じような事が起こったとしても、このような事でしたらお客様のお役にたてると思います。店の中は暖かいし、とにかく座れればだいぶ楽ですよね。一人でいると心細いけど、知らない人同士でも店内で一緒に過ごせれば、少しは心強いかもしれません。」

さらに、「安心安全まっぷ」と題し、災害時、商店街の中でどのお店が空いていて、どこのトイレが使えるかを記した地図を作成した。それぞれの店舗が自分にできる事を提示し、協力し合える街づくりを目指している。

しかし、課題も山積みだ。

1.お客様の要望にもあった、食糧や水の備蓄。どうすれば組織的に、十分な食糧の維持ができ、無駄にならぬように運営するか。ここには、莫大な予算がかかってくる。

2.建物の耐震強度の表記、逃げる時に、どの建物が安全かの目安になるよう、耐震強度を測定しその情報を公開したいのだが、強度の低い建物の持ち主は当然反対する。

3.町内会、住民との連携、災害時の連携プレイを図るため、どこに誰が住んでいるかを細かく把握したいのだが、個人情報の観点からスムーズには情報が収集できない。

4.町内放送設備の予算確保

5.災害時、組織的に高齢者や身体の不自由な人を助けたいのだが、体力のある若手の人材が不足している事。

など、今も商店街の理事長は、多くの課題に向かい、街の人達とのコミュニケーションを怠らない。

◆2つ目の事例、横浜市のマンションの自治会

築40年、10階建の大型マンション、今でも約600世帯の人が住んでいるが、住人の高齢化が著しくすすんでいるマンションだ。

こちらでも、3.11以降、災害時の対策を緻密に考え始めたという。

「自助」「共助」で命を守ろう。

最近では近所付き合いもなくなり、お互いが助け合うという精神が希薄になってきている中、マンションの自治会でも組織的に相互補助のシステムを作り、災害に備えようとなったのだ。これが「共助」にあたる。

通常の管理組合の他に災害対策委員会を設置。住宅管理組合と町内会から必要経費が組み込まれ、委員は毎年選出、現在12人が担当委員となっている。

災害が発生すると、行政と同様に災害対策本部が設置され、被害状況の収集、組織的な救助、備品の配給などを実行する仕組みを確立した。

高齢化の一途を辿るマンションで、特に課題となっているのが、災害時の安否確認だ。10階建、10棟におよぶ約600世帯の確認を迅速に行える体制を整えるため、各階段の担当2名(1~5階、6~10階)の確認担当者を置き、それぞれの担当者から災害対策本部が情報を収集し、救助にあたるという連携プレイだ。

また、安否確認マグネット(住人が災害時に無事を知らせるためのマグネットをドアの外に張りだすというもの)を採用し、部屋の中が見えづらいマンションの特性を逆手にとり、安否確認をより効率的にしている。

また、マンションではエレベーターが使えなくなれば、階段を自力で降りて非難するしかない。身体の不自由な高齢者を迅速に非難させるために、タンカーを使った移送訓練や、上記の安否確認訓練を年に数回行い、シュミレーションを徹底している。

そして、今回、災害対策の最重要事項だと、マンションの災害対策委員の方がお話してくれたのが、実は『トイレ』である。確かに電気、ガス、水道のライフラインが停止すれば、通常のトイレとして機能しなくなるのは当たり前だが、食糧や水、寝る場所を確保するよりも、トイレに行く事が最も難しくなるという。

 これは、意外であったが、これまでの日本に起きた震災の教訓で明確になっている事で、報道ではあまり取り上げられていない。食糧や水、寝る場所の確保は『公助』(国や自治体)に頼り、なんとかなってきたが、トイレは、『公助』でも物理的に補えない。しかも、マンションにおいては、特有の問題もでてくる。

なんと、震度5弱以上になるとこのマンションではトイレは使えなくなるという。

その中身はこうだ。

マンションという共同住宅の建築構造上の問題である。

排水管の一部が破損すると、水道自体が止まっていなくとも、1世帯が排水をした際に、その破損した箇所から水漏れが起き、1階まで落ちた汚水が、逆流するという現象があるという。そのため、排水管に損傷を及ぼす震度が発生した場合は、マンション全体で、トイレ、排水の禁止をするという事になっている。

無論、上下水道共に水道管が破損した場合は、行政上使用禁止だが、例えばその時お風呂に貯めていた水を利用し、トイレや排水を行うと、上記のような被害が起きるため、いずれにしても、マンションにおいては、排水の禁止となる。

となると、水があっても、トイレ自体が損壊していなくても、使えない!

さて、そういった状況にどう対応するかだが、個々人で準備、対策をする『自助』での解決でしかない。

災害対策委員で推奨しているのが、所謂トイレパックだ。

便器に専用の蓄便袋を設置し、要を足したら砂のような凝固剤で固め、密封する。そしてゴミとして処理するという極めてシンプルな手法だ。1人1日5回として、30日分以上のトイレパックの備蓄を推奨している。

公助である国や自治体が用意する避難所や仮設トイレでは、当然、人口の多い地域を賄いきれない。熊本地震においても、仮設トイレに多くの人が並び、2~3時間待ちや、清掃が間に合わず、非常に劣悪な環境になっているのが現実だ。

そのような状況で、女性や高齢者は、なるべくトイレに行かないように我慢したり、水分を採らないようにしてしまい、トイレが原因で体調を悪化させてしまう事態が起きているようだ。

マンションでは特に、トイレ使用不可になる可能性が高いため、命を自ら守る「自助」の準備が必要だと対策委員会は、日々、トイレパックの備蓄を呼びかけている。

 

これまで例にあげた川崎市、横浜市には併せて500万人以上の人口をかかえ、30年以内に大地震が起きる確率が高い地域ともされている。この500万人規模の災難を国が全て支えてくれるとは到底期待はできない。

だからこそ、それぞれの地域(共助)、自分自身(自助)での準備が急務であると考えられる。